第15章 ハピファミ!15
岡内くんは、一ヶ月前からやっと自分の好きなお店でパティシエ見習いとして働きはじめたこと。
いつかは自分のお店をもつことを目指して頑張っていること。
うづさんとは悪友で、腐れ縁で、家出をした彼が押しかけてきたので仕方なく居候させてやっていること。
ワタシの方は、ほとんどまゆらちゃんに関することばかりだったけれど。
数年ぶりに、やっとお互いのことを色々話し合った。
「そうか―――お前も、色々あったんだな」
「ええ、まぁ。そこはお互い様ってことですね」
「違いない。でも、わたる……お前、妹と二人で暮らしてるって」
「はい、愛しのまゆらちゃんと二人暮しです」
「……住んでるところ、危なくはないのか?」
どうやら、岡内くんは心配してくれたらしい。
優しい人だ。
昔から優しかった。
そういうところが変わっていなくて、本当に嬉しい。
「大丈夫ですよ。ワタシが大切な妹と暮らすのに、治安の悪い場所を選ぶと思いますか?」
「思わないな」
「即答ですか」
「ああ。散々、お前の妹に対する溺愛っぷりは聞かされてきたからな。嫌になるくらい」
「……嫌なんですか」
「……ばーか、冗談だ」
「なにやってんだ、お前ら」
岡内くんお手製ケーキを食しながら楽しく談笑中。
そんな雰囲気をぶち壊すかのように、気の抜けきった声が割り込んできた。
ここ数ヶ月で、ずいぶんと聞き馴染んだ声だ。
反射的に目を向けてから、視界に入ったものを認識して、思わず静かに顔を背けると。
同じように顔ごと逸らした岡内くんと目が合って、二人して頭が痛いというように掌で顔を多い、溜め息を吐いた。
「何やってんだ、は、お前だ。馬鹿」
「……うづさん。ワタシは今、あなたに変態と大声で罵ってやりたい気分です」
「あ?」
何がなにやらわからないといった表情で、眠そうに欠伸をするうづし夫さん。
顔だけ見れば普通の寝起き。
首から下は、幾分やわらいだ陽射しが窓から差し込んでくる穏やかな午後の空間には、とてもじゃないが似つかわしくない光景で。