第2章 ハピファミ!2
涙を拭うように頬へそっと触れてきた手は、記憶にある「夢名前」の半分しかない。
そして今の私も、「まゆら」と同じで小さいのだ。
小さすぎて何も掴むことのできなさそうな手、けれどやわらかくて温かい手。
私は頬にある「まゆら」の手に、上から自分の手を重ねる。
包み込まれた手も包み込んだ手も、どちらも小さな小さな幼い子供の手。
これが現実。
これが今の私。
ここが在るべき場所。
これから生きていく世界。
「……まゆら、ちゃん」
はじめて呼んだ、妹の名前。
自分の片割れである少女の名前。
それはまるで魔法のように、口にした瞬間ストン……と私の中へ落ちていって。
欠けていたパズルのピースが埋まるように、ぴったりおさまった。
「まゆらちゃん」
もう一度呼ぶと、ただでさえ大きな目を丸々とさせた「まゆらちゃん」が勢いよく抱きついてきた。
そして「わたるちゃん、わたるちゃん、わたるちゃん!」、私の名前を何度も何度も呼ぶ。
倒れそうになった自分の体をなんとか少女ごと支えながら、返事をするかわりに私も、「まゆらちゃん、まゆらちゃん」と、繰り返し声にのせた。
こうして「まゆら」は「まゆらちゃん」に、「夢名前」は「わたる」になり。
私はワタシとして、ようやく生まれたのだ。
まゆらちゃん、それは愛すべき我が半身。
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初めての言葉は「ママ」でも「パパ」でもなく、「まゆらちゃん」でした。
ここからシスコン街道まっしぐらな人生。