第2章 ハピファミ!2
【幼少期2】■たまごは泣いてふたごになった□
約20年間生きてきたという記憶を有している私は、今の自分が幼い子供であるという現実と、すんなり馴染むことができなかった。
……結果。夢と現の狭間でゆらゆら揺れて、一日のうちの大半をぼんやりと過ごす、不思議系幼児に仕上がった。
まだ5歳しか生きていない私にとって「夢名字夢名前」の記憶の影響力はとても強く、今の両親を実の両親とは受け入れ難かった。
かといって、自分を可愛がってくれる二人を嫌いなわけではない。
例えるなら、仲の良い親戚のおじさんおばさんのような存在。
好きだとは思うけれど、それ以上に成り得ようもないのが少し申し訳なかった。
……なんて、そこまで考えたところで、子供らしからぬ思考に溜め息がもれたのも仕方のないことだろう。
ただ、そんな中で「まゆら」という少女だけが、私の中で他とは違う位置に存在していた。
理由をあげるなら……
自分の片割れだから。
無邪気で幼い子供だから。
純粋に私を慕ってくれるから。
裏のない笑顔を向けてくれるから。
笑い方を思い出させてくれたから。
どれもこれも、ひとつひとつは小さなこと。
でも私にとってそれらは、とても大きなもの。
ぼんやりとした世界の中で、「まゆら」の笑顔だけは鮮明に私の瞳に映った。
きらきら輝くそれは、私を現実へと引き戻し、笑みを誘い出してくれる。
いまだ私が「まゆら」という名前を呼ばないことに、不思議そうに首を傾げることはあっても、片割れで妹である少女は無理に言わせようとはせずに、「まーゆーら、よ?」と楽しそうに笑って、何度も名前の呼び方を教えてくれた。
普段から言葉を発することのない私を見て、どうやら「まゆら」は私がまだ上手に喋れないのだと思い至ったらしい。
優しい誤解をする幼い妹に、何故か涙がこぼれた。
ぽろぽろ声も出さずに泣き続ける私を見て、そのうち「まゆら」も泣きはじめた。
小さく引きつった声を出しながら、目の前で泣く私に向かって「だいじょうぶ、だいじょうぶ」と何度も伝えてくる。
その様子にハッと目を見開いた。
自分を囲んでいた眠りの靄がすっきり晴れて、急激に頭の中が鮮明になったような感じだ。