第14章 ハピファミ!14
「うづし夫さん。とりあえず、トイレ掃除してきてください」
「ああ?今週は岡内だろ」
「遅刻してきて、さらに文句ですか?ずいぶんと、いいご身分ですね」
にっこり笑顔を貼り付けて見せると、彼は苦虫を噛み潰したような表情をして座っていたテーブルから降りた。
一応、自分が不利だということはわかっているらしい。
「あ、そうだ。おい!」
「……」
「おいこら、テメー無視すんな」
「ワタシは『おい』でも『テメー』でもありませんから」
「チッ……わたる」
「はい、なんですか」
「メンドくせぇな、お前は。お前、俺のこと『さん』付けで呼ぶのヤメロ」
「え」
「気色悪ィんだよっ、その呼ばれ方」
「でも、ワタシは皆さん『さん』付けもしくは『くん』付けなのですが……駄目ですか?」
「ダメだ、やめろ」
「どうしても?」
「ど う し て も だ」
本気で嫌そうな顔で舌を出している彼には悪いのだが、慣れぬ呼び捨てなどワタシもしたくはない。
となると、呼び方そのものを変えなければいけないことになる。
名前そのものに「さん」付けするよりは、多分きっとマシに違いない。
「なら、うづさん」
「はあ?」
「ですから、『うづし夫さん』が駄目ならば『うづさん』ということで」
「勝手に呼び名を増やすな」
「お互いの意見を踏まえた上で、妥協した結果です」
「オイ」
「これ以上は譲れません。これで駄目なら、文句や苦情を言われようが名前にさん付けを貫きとおします」
「……あー、も、わかった。勝手にしろ。ただし、その呼び名を普及するのだけはよせ」
「わかりました。それじゃあ、うづさん。掃除よろしくお願いします」
「わーったよ!ったく」
うづさん。
何気なく決めたその呼び名に、どこか引っかかるものがあったのは確か。
だからこそ決めたというのもある。