第14章 ハピファミ!14
彼に悪気がなかったことは、わかっている。
何故なら、ワタシの名前を口にした彼は次の瞬間、やってしまった!とでも言うように苦々しい表情をしたから。
本当は、ワタシを関わらせるつもりなど無かったのだ。
ただ、すでに二人組みの関心はワタシに向かってしまった後で。
下手に目をつけられたまま逃がすよりも傍にいた方が何かと対処しやすいし、安全を確実にしてから逃げた方が良いだろうと判断した結果……だったのだろう。
これはあくまでワタシの推察であって、真実とは違うかもしれない。
でも、そう間違っていないのではないかと思う。
二人組みのことを大声で愚痴った後、彼は聞き逃しそうなほど小さな声で、「悪かったな」と、謝ったのだ。
そして珍しくも飲み物をおごってくれた。
自動販売機で、というところがまた彼らしくて。
つい声に出して笑ってしまったせいで、彼は怒ってしまったが。
暗い中でもわかるほどに赤くなった頬や鼻や耳が、それは照れ隠しだと告げていたので、気にせずさらに笑った。
本当はあのとき。
ワタシ一人なら、捕まることなくさっさと逃げることもできた。
でも。
「……放っておけなかったんですよね、なんとなく」
「あ?なんか言ったか」
「いえ。そろそろ遅刻するの、やめたらどうですか?」
「無理だな」
「即答しないでください。そこは上辺だけでも、努力すると言うべきところでしょう」
「そんな嘘ついてなんになるってんだ?どうせ努力しねーんだから、はじめから正直に言っといた方がまだマシってもんだろ」
「はあ……マシとはいえ、微々たるものですけど。むしろ開き直っている分、性質が悪いのでは」
「はっは!ほめんなよ」
「ほめてません。まったく……ほんと、おかしな人ですね」
あきらかに素行はよくないし嘘はつくし態度は悪いし。
いわゆる短所や欠点や悪口と呼ばれるものを連ね上げたらキリがない。
なのに、変なところで優しかったり可愛かったり、なんとも憎めないところがあって。
いちど中身を知って、触れてしまったら、どんどんハマッて抜け出せなくなってしまいそうな男。
厄介だ。
けれど、もうすでにハマりはじめているのかもしれない。
彼の行動に口を出す程度には。
ああ、面倒なことこの上ない。