第12章 ハピファミ!12
「おい、コラ待て」
「イヤです」
声をかけられたけれど、ワタシにはテーブルを拭いてきれいにするという仕事があった為、キッパリお断りする。
そのまま別のテーブルへ移動しようとしたら再び声をかけられ、強い力でグイッと荒っぽく肩を引かれたものだから後ろへ少しよろけた。
邪魔をされれば誰でもムッとくるもので、もれなくそれに当てはまったワタシは引きとめられた原因をひょいと棚上げして、自分の肩にある腕をつかむと素早く足払いをしかけ、男の体を床へ転がした。
一応、怪我のないよう気をつけて倒したので、痛みはほとんどない筈だ。
彼は何が起こったのかわからない表情で、お店の天井を見上げながら目を瞬かせている。
「文句があるなら、きちんと仕事をしてからにしてください。給料ドロボーの言い分なんて、聞く気もおこりません」
「っ……上等だ、このクソ女」
「ワタシの名前はわたるです。変な呼び方しないでください、このクソヤロー」
「俺にも渦潮って名前があんだよ!覚えとけ、そのうちテメエの穴でやりまくってやる」
これが、彼とワタシが、互いの名前をはじめて認識した瞬間だった。
ああ、まゆらちゃん。外には野獣のような男どもがいっぱいですよ。
くれぐれもよく注意してお付き合いしてください。
もし身の危険を感じたら、どうにかしてワタシに伝えること。
そしたら、いつでもどこでもすぐに助けに行きますから!
相手には、二度と顔を合わすことのできないトラウマを植えつけてやるので安心してください。
―――なんてことを、家に帰って食事の仕度をしてくれたまゆらちゃんに言ったら。
「やだなぁ、わたるちゃん。心配しすぎ!」
明るく笑ってかわされた。
かわいい我が妹は、どうやら冗談だと思ったらしい。
しかしワタシ的に冗談を言ったつもりは全くない、100%心の底から本気である。
まゆらちゃん自身の許可なく手を出してくるような害虫ヤローは、もれなく地に沈めてやる。
これがヤローじゃない場合は…………なんとも言えないな、どうしよう。
うずしお。とりあえず彼には、まゆらちゃんを絶対に紹介しないでおこうと思った。
あと、バイト先にも何とか興味をもたせないようにしなくては。
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ある意味忘れられない運命の出逢い。好感度はマイナスだ。