第11章 ハピファミ!11
「岡内だ、よろしく」
「わたるです、よろしくお願いします」
「……わたるって、言うのか?」
「はい」
「わたる…………俺に、見覚えはないか?」
「は?…………いえ、見覚えはありませんね」
名前に聞き覚えはあるのだが、あいにくとオカウチ青年の顔に見覚えはない。
今世ではあまり記憶力のよろしくないワタシだが、さすがにこれだけ整った顔をすっかり忘れてしまうことはないだろう。
「ちょっとちょっとォ!岡内、あんた、わたるちゃんに手ぇ出さないでよね」
「あ?いや、別にそういう意味で言ったんじゃない」
「うーん、名前に聞き覚えはあるんですけど……」
「えぇ、わたるちゃんまでぇー。何よ岡内っ、知り合いなの!?」
「だから今それを確認しようとしてるんだ!胸倉をつかむな、服が伸びるっ」
「あの……とりあえず、まずは仕事を教えてもらえませんか?開店時間になっちゃいますよ」
そんなこんなで仕事内容を教わりながら、慌てて三人で開店準備。
すぐに時間になって仕事に入り、後はもう慣れない初仕事にいっぱいいっぱいで、閉店してからも片付けや掃除にと忙しくしていた為に、ゆっくり話なんてしている暇もなく。
「オカウチナオキ」青年が、まだワタシが子供で武道場に通っていた頃に知り合った、大切な友人である「岡内ナオキ」くんだと判明したのは。
悪酔いして絡んできたお客様を、うっかり床に沈めて気絶させてしまったバイト三日目の夜のことだった。
岡内くんの方は名前と顔でもしや……と思ってはいたが、いま一つ確信に欠けていたので聞くのを躊躇っていたそうだ。
その確信できなかった理由、どうも岡内くんはワタシを男の子と勘違いしていたらしい。
昔は愛するまゆらちゃんと自分との違いをわかりやすくする為に、ベリーショートにしていたから仕方がないと言えば仕方がない。
そして高校のときに、まゆらちゃんが肩につかない長さまでバッサリ切ってしまって以来、逆にずっと伸ばし続けてきたおかげで、今ワタシの髪は背中辺りでキープされている。
外見的にはどう見ても女だ。
まゆらちゃんが伸ばしはじめたらまた短く切ってしまおうかと考えてはいるが、その愛しのまゆらちゃんが「せっかく伸ばしたのに!」と言っているので、これから先どうするかはわからない。