第8章 ハピファミ!8
なんとなく近寄りづらくて、ちょっと距離を置いたまま男の子の口の中へ次々と消えていくお菓子たちをジィーッと見つめていたら、そんな視線に気づいたらしい男の子と目が合い。
お互いに固まった末、食欲を抑えられなかったワタシの腹の虫が元気よく鳴いたところで、大笑いしたオジさんにお菓子をわけてもらった。
それはクリームもトッピングも何もない、シンプルなケーキ。
「どうも、ごちそうさまでした。とても美味しかったです」
手の平を合わせ小さく頭を下げれば、「これはどうもご丁寧に」と笑われた。
ついでにかき回すように頭を撫でられたせいで、ワタシの髪の毛はぐっしゃぐしゃだ。
そんな鳥の巣頭を見た男の子がプッと吹いて笑いだし、つられてワタシとオジさんも笑った。
お菓子が無くなって少しすると、オジさんは「まだ仕事が残ってるから、またな」と店の中へ戻って行き、残されたワタシと男の子はぎこちなく顔を見合わせて自己紹介をはじめた。
「えーと……ワタシはわたると言います」
「僕は……ナオキ」
「ナオキくんですか」
「うん」
「苗字は?」
「岡内」
「オカウチ、ナオキくんですね?」
「うん、そう」
「オカウチナオキくん」
「うん」
すぐに会話は途切れ、辺りに漂いはじめる気まずい沈黙。
どうやら、オカウチ少年は人見知りする性質らしい。
実はワタシもそうなのだが、ここはせっかくオジさんとおいしいお菓子が引き寄せてくれた縁。
たまには自分から一歩を踏み出し、新たな繋がりを作る努力をしてみることにした。
「あの、オカウチナオキくん」
「……なんでフルネームで呼ぶの?」
「名前を覚えるの苦手なんですよ。だから、ちゃんと覚えるまでそう呼ぶことにしているんです」
「へぇ、そうなんだ」
「はい。それで……オカウチナオキくんは、いつもここでお菓子を貰ってるんですか?」
「ううん、いつもってわけじゃないよ」
「そうですか」
「…………」
―――撃沈。