第8章 ハピファミ!8
【少女期3】■□ケーキに願いを込めたなら ■□
愛するまゆらちゃんと別行動をとることにも、ずいぶん慣れてきた近頃。
すっかり病弱という言葉から縁遠くなってきた頃には、習い事が週二日から三日に増え。
今では師の都合が悪くない日以外は毎日、武道場へと足を運ぶようになった。
練習熱心なワタシの様子に両親も感心し、通いはじめた頃の不安なども消えたようだ。
まゆらちゃんはまゆらちゃんで、ワタシが家で自主練習をしていると、なんだか面白そうに見学している。
ただ、さすがに毎日ともなると、まゆらちゃんだって迎えに来れない日もあるわけで。
自分の都合を優先させているのだから仕方ないとはいえ、少し寂しい。
そんな気持ちを紛らわせるため、気分転換という名目でいつもは通らない道を通り、のんびり景色を眺めたりしながら歩いているうちに、一人の少年と出会った。
年齢はワタシと同じくらい。
黒い短髪で、爽やかな印象の「オカウチナオキ」とかいう名の男の子。
出会った経緯はこうだ。
その日は愛するまゆらちゃんのクラブはお休みで、ワタシの知らない同じクラスの友達と遊ぶ約束をしていた。
もちろん、武道場には来れない。
稽古が終わってから一気にテンションが下がったワタシは、まだ一度しか通っていない道に足を進めてみた。
すると、どこからともなく甘い香りが漂ってきた。
運動を終えたばかりでお腹も空いてきていたせいか「焼き立てお菓子の匂いだ!」と判断するなり、簡単に誘惑されフラフラとした足取りでおいしそうな香りがする方へ歩いて行った。
食欲に負けて向かった先には、一軒のケーキ屋さん。
店の名前は…………日本語じゃないのでよくわからない、勉強関連に前世の記憶は役立たなかったようだ。
とりあえず頭文字が「A」だったのはワタシでもわかったし覚えている。イニシャルA。
いつか探したいと思ったときの、手がかりくらいにはなるだろう。たぶん。
店の前には白い厨房服を着たオジさんと一人の男の子がいて、オジさんが片手に持った……四角い金属のトレーのような容器に乗せられている……焼き菓子みたいな物をその男の子にふるまっていた。
男の子は嬉しそうに美味しそうにお菓子を食べていて、オジさんも嬉しそうな顔で笑っていた。