第7章 ハピファミ!7
美味しいお茶を飲みながら、ぼんやり眺める庭の景色はなによりも美しい。
時折そよいでくる自然な風と、運ばれてきた木々の爽やかな香りは、心をほっとさせてくれる。
まゆらちゃんがそばにいない時間を寂しいと感じず、これほど充実した気分で過ごせるのははじめてのことだ。
素晴らしい。良い場所と良い師に巡りあえて、本当によかった。
たまにはこうして、まゆらちゃんと離れてみる必要があるのかもしれない。
まゆらちゃんと一緒にいるワタシは、どうしてもまゆらちゃん以外に意識が向かないから。
一人になって、一人でなにかに出逢い感じ見つけることもまたいいだろう。
お互いに話をしたときに知らないことを知れるのは得した気分になれるし、なにより話を聞いているまゆらちゃんはとても楽しそうな表情をする。
家に帰ってからのことを考えながら歩く時間も、けっこう楽しいことに気づいた。
けれど大抵は、ワタシよりも先にクラブを終えたまゆらちゃんが、用事のないかぎり武道場まで迎えにきてくれる。
「わたるちゃーん。終わった?」
「あ、まゆらちゃん!はい、終わりましたよ」
「じゃあ、いっしょに帰ろう!むこうで待ってるね」
「わかりました!……では、今日もありがとうございましたっ」
ワタシの変わり身の早さに師は苦笑を浮かべたが、気にしてなどいられない。
まゆらちゃを待たすわけにはいかないワタシは、急いで更衣室で着替えを済ませなければならないのだから。
着ているものを脱ぐと、たたむ間も惜しいので丸めてバッグへ突っ込む。
慌てて黒のTシャツと飾りサスペンダー付きハーフパンツを身にまとい、髪の毛がぐしゃぐしゃなのもかまわずに道場の入口まで走った。
鳥の巣頭を見たまゆらちゃんが、おかしそうに笑う。
こんな可愛らしい笑顔ならば、笑われるのも悪くない。
喜んで笑いの素を提供しよう。
ワタシの変な意気込みに気づくことなく、愛するまゆらちゃんは「おなかすいたねー」とまた笑って、ワタシの手を取り歩き出した。
片手に握った温かさで、ワタシの顔にも笑みが浮かぶ。
夕暮れの中、愛するアナタのとなりを歩く幸せ。
手を握り、温もりを感じながら笑いあえる悦び。
たくさんの幸福が、ワタシにはある。
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愛するまゆらちゃんと少しだけ離れてみよう&似非病弱の殻をブチ壊そう計画。