第10章 君との向き合い方
抱きしめてぇと、さっきまで確かに思っていたけど…
絶対に抱きしめちゃダメだ。
自分に強く言い聞かせた。
目の前に部屋着の和奏。
想像より質素で、整った部屋は和奏の香りで充満していて、
その上、家には誰も居ないとか…。
抱きしめたら最後、絶対に傷付けるような事しちまいそうな俺の脆い理性。
「少し落ち着いたか?」
良ければベッドに座って下さいと言われて、理性が崩壊して行く音が和奏に聞こえないように、わざと落ち着いた声を出した。
「すいません。いきなり泣いて…。」
和奏はそう言いながら、俺の横に腰を下ろした。
いやいや、ベッドに並んで座ってるシチュエーション…。
俺の理性も中学生並みかよ。
心の中で葛藤していると、和奏が続けた。
「黒尾先輩は…?」
何で来たんですか?最後までは言わないけど、そんなニュアンスで、和奏がこちらを覗き込む。
頼むから….下からそんな、可愛い顔して覗き込むんじゃねぇよ。
「俺は…昨日の事謝りに来たんだよ。」
謝る前に更に重大な失態をおかしそうになっている事はバレちゃいけない。
「謝らないで…下さい。」
「は?」
罵られる準備をしていた心が和奏の一言で意表を突かれて、間抜けな声しか出せなかった。
「やっぱり、私…黒尾先輩とは相性いいんだなぁって思いました。」
何だか見覚えのある妖艶な笑顔で微笑んだ和奏の顔が近付いてくる。
唇が触れ合った時に、理性なんてボロボロに崩れちまった音が聞こえた。