第10章 君との向き合い方
こんな事で嬉しいなんて…。
たかが、和奏が俺の番号を登録から消してなかっただけ…。
たかが、俺からの着信だと知っていて出てくれただけ…。
それだけの事が、こんなに嬉しいなんて。
「突然、悪りぃ。体調大丈夫か?ちょっと話したいことがあって…今、和奏の家の前まで来てんだけど。」
電話越しに短く驚きの声が聞こえ、直ぐに目の前の2階の窓が開くと、和奏が目を丸くして身を乗り出した。
「思ったより元気そうで良かったよ。ちょっと…出て来れるか?」
和奏の顔を真っ直ぐみながら、携帯越しに話し掛ける。
「あ…の、黒尾先輩と話すことはありません。昨日の事だったら、気にしないで下さい。」
何となく予測していた通りの答え。
昨日の事、木兎に相談でもしたんだろうか?
それで、謝りに来ても話す必要ないと和奏に言ったのだろうか?
「木兎に…俺と話すなって言われたのか?」
視線を和奏から外さずに、真っ直ぐ話し続けていると、和奏が急に泣き出した。
は?
泣き出すような事言ったか??
何も答えずに泣き続ける和奏。
目の前で泣いているのに、手が届かない事がこんなにも歯がゆいとは知らなかった。
抱きしめてぇ。
「おい、やっぱり出てこいよ。じゃなきゃ、俺がそっちに行くぞ!2階くらいだったら簡単に登れるんだからな。」
いや、民家の2階によじ登った経験なんてないけど…そこで和奏が泣いてるなら、何でも出来そうな気がする。
和奏は泣きながらも、少し困ったような顔をした後に窓辺から離れた。
きっと下に降りて来てくれるのだろう。
そう考えているうちに、目の前の玄関がガチャリと音を立てて開いた。
「黒尾先輩…。」
思わず和奏に駆け寄って、流れる涙を親指の腹ですくう。
「何泣いてんだよ。俺のせい?」
和奏がブンブンと首を横に振るから、少しの安心と、じゃあ何で泣いてるんだよ…と疑問を覚える。
「あの…先輩、良かったら中に…。私部屋着で出れないし…。家、誰もいないので大丈夫です。」
少しだけ涙が落ち着いたのか、和奏がそう促したので、遠慮なく家にお邪魔させてもらう事にした。