第9章 恋心の育て方
「悪かった…。」
黒尾先輩はそう言った。
まさか私が泣くと思っていなかったのだろう。
今まで黒尾先輩の前で強がっていた私なら、きっと笑って冗談の一つでも言ったはずだ。
きっと黒尾先輩に面倒な女だと思われた。
いや、黒尾先輩には元々フラれていたんだ。
だから、今更面倒だと思ったところで、今までと何も変わらない。
それに…私は木兎さんと付き合うんだ!
教室に向かう廊下を歩きながら、制服の袖で目元をゴシゴシこすって、涙を無理矢理止める。
忘れよう。
何もなかった事にしよう。
そうじゃないと…木兎さんとどんな顔して会ったらいいのか、わからなくなる。
何もなかった。何もなかった。
何度も心の中で唱えているうちに、段々と落ち着いてきた。
「皐月さん。ちょっと、話があるんだけど。」
教室の前まで行く頃には涙もすっかり止まっていたが、入り口付近の廊下に、見覚えのある集団を見かけて、思わず回れ右をしようかとした所に声を掛けられた。
見覚えがあるのも当然で、以前黒尾先輩と映画を観に行った後に呼び出された先輩達だった。
あの時はほぼ初対面の木兎さんに助けられたんだった。
「私は…特に話す事ないですけど。」
黒尾先輩のフラれてから、何の関わりも無かった人達だ。
まぁ、向こうはフラれた私をいい気味だと笑ったり、木兎さんと一緒に居る私に腹を立てたりしていたようだけど…。
何の用事だろう…?
まさか、黒尾先輩とキスしたのが…バレて…。
いや、それにしては早すぎだろう。