第9章 恋心の育て方
「何…イライラしてんのか知らないけどさ…。あっ、欲求不満でイライラしてんじゃねぇの?木兎じゃ満足出来ないの?俺が気持ちよくしてやろうか?」
私の自分に対するイラつきを黒尾先輩は敏感に察知してそう言った。
本当に…もうやめて下さい。
何とも思ってないくせに、私の心をいとも簡単にかき乱すのは…。
「黒尾先輩…最低です。…木兎さんの方が100倍マシ。」
もう一度声に出して自分に言い聞かせる。
木兎さんの方がいい。
黒尾先輩が少し怒った顔をするのが見えて、マズイと思った次の瞬間には、背中に衝撃を感じて、唇に柔らかい感触が触れる。
懐かしい感覚に、反射的に舌を絡めそうになって、そこで気付いた。
私…キスされてる!?
「ん…ん…」
黒尾先輩は知っているんだろうか。
黒尾先輩にとってはなんて事ないキスが、どれだけ私を酔わせるのか。
木兎さんとのキスと全然違う…。
これは…本当にダメだ。
慌てて黒尾先輩の体を押して離そうとすれば、両手を頭上で押さえつけられる。
抵抗した私をからかっているのか、先程より更に濃厚なキスが続く。
私の気持ちいいところを知り尽くした黒尾先輩のキスに…感じないはずない。
段々と酸素が不足してきた頭では、考える事さえ難しくなってきて…。
声を上げないようにしているだけで精一杯だ。
「…どう?続きしたくなったか?」
そう聞いてくるタイミングさえ…ムカつくくらい完璧だ。
意地悪に笑う黒尾先輩に、このまま続きをして欲しい衝動に駆られたけど、ギリギリのところで理性が競り勝つ。
黒尾先輩を力任せに押し返して、叩いてやろうと勢いよく手を振り上げてみたけど…。
私…まだ黒尾先輩の事こんなに好きなんだ…。
結局、振り下ろすことは出来なかった。
「黒尾先輩なんて…大嫌いです。」
振り下ろせなかった掌の代わりに、思った事と正反対の事を口にする。
悔しすぎて涙が溢れた。