第9章 恋心の育て方
「…まだ付き合ってません。」
誰に聞いたのだろうか。
木兎さん?
いや、孤爪君がたまに木兎さんとの事を聞いてくるから、そっちから聞いたのかもしれない。
「まぁ、木兎は適当な奴だからな。オススメはしねぇよ。俺が言うなって感じかもだけどな。」
じゃあ、黒尾先輩が私と付き合って下さい。
そんな事を冗談でも口にしそうになって、昨日手を繋いだ時の嬉しそうな木兎さんの様子を思い出した。
私、何言おうとしてるんだろ。
「本当に…どんな立場でそれ言ってるんですか?木兎さんは黒尾先輩より何倍も真面目な人です!」
何だか自分に腹立たしくて、きつい言い方になってしまったけど、黒尾先輩は全く気にしている様子はなく、飄々と続けた。
「俺と木兎比べたら、100人居たら100人が木兎の方が信用出来ないって言うだろ。」
お願いだから、黒尾先輩と木兎さんを私の中で比較させないで欲しい。
何ヶ月もかかってやっと木兎さんに向かっていこうとしていた気持ちが簡単に黒尾先輩の所へ戻ってしまいそうで、焦った。
「他の人の評価なんて知りません。私が木兎さんを信頼してるので、それで十分です。今はまだ付き合ってませんが…近いうちに付き合うと思います。」
自分の気持ちに、言い聞かせる。
黒尾先輩にはもうフラれている。
今だって、全く脈がないんだから。
黒尾先輩は私と木兎さんの事を面白がっているだけだ。
私は木兎さんと付き合うんだ。
だからこれ以上、黒尾先輩に惹かれないで。