第1章 小さな嘘の始め方
それから黒尾先輩と連絡を取り出した。
黒尾先輩から来るメッセージが楽しみで、1日中携帯チェックばかりしている自分を笑ってしまう。
こんなのじゃ、すぐに遊んでないって見破られちゃうよ。
私が推測する黒尾先輩に近付く為の大切な方法がいくつかある。
とにかく重くならない事。
都合のいい女でいる事。
でも、見下されない事。
黒尾先輩の近くに為いるなら、完璧にやりぬこう。
家に遊びに来ないかと誘われたのは、連絡を取り出してすぐの事だった。
「あーっと…俺、後から面倒なのとか勘弁だから、先に確認しとくけど…彼氏とか居ないよな?」
部屋に入るなり、黒尾先輩がそう確認する。
過去に修羅場の経験でもあるのだろうか。
「いません。と言うか、いりません。私、その時が楽しめればいいので、彼氏とかはちょっと…面倒です。」
もちろん嘘だ。
彼氏がいない事だけは本当だけど。
何だったら、今まで一度も彼氏がいた事がない。
彼氏は出来たらいいなぁくらいには思っていた。
でも、今となっては、それが黒尾先輩以外じゃ意味がない。
黒尾先輩以外の彼氏が出来るくらいなら、黒尾先輩と一緒にいたい。
たとえ、嘘をついてでも。
どれだけ、少しの時間でも。
そして一番になれないとしても。
私の返答を聞いた黒尾先輩が、嬉しそうに笑って私を引き寄せた。
「いいね。最高。」
頭は大パニックでそれどころじゃない。
わ…私、黒尾先輩に、抱きしめられてる!?
これだけでも、ここまで頑張った甲斐があるというものだ。
恥ずかしくて顔が赤くなりそうだった。
いやいや…ここで赤くなっる場合じゃない。
「楽しませて下さいね。黒尾先輩♫」
黒尾先輩が笑いかけてくれるなら、こんな嘘はいくらでもつける。
これが私の初体験の始まりの合図だった。