第1章 小さな嘘の始め方
黒尾先輩に認識される為には更なる努力が必要だった。
体育館に通って、あの女子生徒達の群れに入るのは嫌だ。
群れの一人としてではなく、ちゃんと皐月和奏、個人として認識されたい。
クラスメイトの孤爪君を最大限利用して、バレー部が部活帰りに利用しているファストフード店を割り出した。
「孤爪君と同じ2年3組の皐月 和奏です。以後お見知り置き下さい!」
ワイワイ盛り上がるバレー部のテーブルにやや強引に乱入した時の事は忘れない。
「クロ目当てにグイグイ来る子は割と多いけど、ここまで押し掛けた子は初めてだよなぁ。」
「クロさん、羨ましいっす。どうしたら、女子と話せるんですか!?」
先程に輪をかけて盛り上がるバレー部の中で、
孤爪君だけが少し不機嫌そうな様子だった。
「皐月、ここに何しに来たの?クロの事ならやめとけって言ったよね?皐月とクロは合わないよ。」
これまでの過程で、確かに孤爪君には散々警告をされた。
スカートが短くなった時も、
髪の色が明るくなった時も、
化粧を始めた時も、
もれなく文句を言われたし…。
でも、ここでその他大勢の1人になっちゃダメだ。
「孤爪君はいつも余計な心配ありがとう。こちらも遊び人の黒尾先輩をまさか本気で落とそうなんて思ってませーん。ただ、黒尾先輩に非常に興味があるので、お近付きになりたいんです。損はさせませんよ。」
黒尾先輩は少し驚いた顔をした後に、ニヤっと口元だけ笑って連絡先をくれたのだった。
「損させないって言葉、忘れんじゃねぇぞ。」
クシャっと撫でられた頭。
体育館での出来事を思い出して、心拍数が上がるのを感じた。