第7章 失恋の乗り越え方
「あの…木兎さん、お気持ちは嬉しいんですけど…ここでは目立ち過ぎて…。」
木兎さんの視線が周りに向くように、チラッと周囲を見て促すと、木兎さんはやっと周りの様子に気付いたようで驚いた顔をした。
「わ…。俺は全然平気だけど、和奏ちゃん恥ずかしいよな。ごめん!」
私にガバッと頭を下げると、今度はくるりとギャラリーの方を振り返り、お騒がせしてすいません!と頭を下げている。
「頑張れよー!」
「いい奴だぞー。OKしちゃえー。」
ギャラリーを完全に味方につけてしまっている木兎さんに腕を引かれて、人混みを抜けて、そのまま近くのカフェに入る。
とりあえず2人分の飲み物をオーダーしてから、珍しく気まずそうに話し出す木兎さん。
「ごめんね。俺、周り全然見えてなくて…。」
落ち込んでいる様子が何だか可愛い。
先程までの一連の流れを改めて思い出して、思わず吹き出してしまう。
「もう、木兎さんってなんなんですか?通行人の人たちまであっという間に味方にしちゃって。」
堪えきれずにケラケラ笑うと、木兎さんがやっとお馴染みのニカっとした笑顔に戻る。
「良かったー。和奏ちゃん怒ってなくて。告白で怒らすとか、ヤバすぎるだろ。」
「あれだけ人が集まってるのに、気付かないとか、集中力どうなってるんですか?」
「和奏ちゃんに俺の気持ちわかってもらう事しか考えてなかった。」
こう言う時、急に真剣なトーンになる木兎さんを心底ズルいと思う。
たぶん、恋愛経験と言うものの経験値が圧倒的に違うのだ。
「あの…さっきの話ですが…。」
圧倒的に慣れている木兎さんに、思い通りに喜ばされたり、舞い上がらせられたり…そうやって、どんどん木兎さんの術中にはまって行くんだろう。
「うん。」
木兎さんの纏っているNoと言っても許されるような雰囲気さえ、彼の余裕の表れで、私には勝機が無いと思わせる。
いや、別に勝ち負けでは無いのだけど…。
「木兎さんとは付き合えません。今は…まだ。でも、そのうち黒尾先輩の事なんて綺麗さっぱり忘れて…、その時にまだ木兎さんが今と同じように言ってくれるなら…。」
そんな日が来る予感がしている。
返事の代わりに木兎さんがとびきりいい笑顔で笑ってくれた。