第5章 ヤキモチの引き出し方
「早かったじゃん。あっ、そう言えば今日木兎に会ったか?」
部屋に通してもらうとすぐに黒尾先輩がそう切り出した。
「はい。木兎さん…今まで一緒でした。」
例えば、木兎さんを利用する作戦を実行していた場合…わずかな期待を持って黒尾先輩の反応を待つ。
「ふーん。まぁ、別に興味ないけど。それより、先にやる事ヤろうぜ。」
興味ない。
そうだろう。
黒尾先輩が私に興味ない事なんて、初めからわかっていた。
初めからわかっていたくせに、ずっと事実を見ないできた事だ。
孤爪君は幼馴染だから黒尾先輩の事をよく知っているのだろうか?
彼の言った秘策の言葉が浮かんで…いや、違う。
黒尾先輩の家に来るまで、繰り返し唱えていた。
この部屋に入ってからも。
素直に気持ちを伝える事。
なんてシンプルで、なんてハードルの高い言葉だろう。
ゴクリと自分が息を飲む音が聞こえた。
「黒尾先輩。私、今日はセックスしに来た訳じゃないんです。」
あと数センチでキスするところだった黒尾先輩がピタっと動きを止める。
一言も発さないが、その瞳が先を促していた。
「私、黒尾先輩が好きです。」
黒尾先輩の驚いた表情と目が合った。
今まで黒尾先輩の意表を突こうと、色々頑張って来たが、今のが一番驚かす事が出来た気がする。