第5章 ヤキモチの引き出し方
「じゃあさ…今のまま黒尾君の側に居て、いつか振り返ってもらえるの?ってか、黒尾君が振り返ったところで、和奏ちゃんは自分を偽ったままでいいの?それって幸せなの?」
木兎さん相手にやりづらいと感じる理由がやっとわかった。
話す事全てが真っ直ぐで…こちらがかわそうと逃げても、逃げた先の正面からまたこちらに向かってくる。
「…。」
幸せか?
そう聞かれて言葉が出ない。
黒尾先輩にこちらを見て欲しい。
多くの女の子達の中から、私に気付いて欲しい。
存在を知って欲しい。
話し掛けて欲しい。
笑いかけて欲しい。
私だけを見て欲しい。
でも…その時、黒尾先輩が見つめた先にいる「私」は、本当に私なのだろうか。
「とっておきの駄策なんだろうね。」
先程教室で聞いた孤爪君の言葉が蘇る。
「黒尾君…煮るなり焼くなりお好きにどーぞって言ってたぞ。俺が和奏ちゃんにアプローチするって言った時。」
煮るなり焼くなりお好きにどーぞ。
いかにも黒尾先輩の言いそうな言葉だ。
一番怖いのは嫌われる事じゃない…無関心だ。
たぶん…1人なら泣いていた。
目の前に座る木兎さんも、もうニコニコしていない。
「悪い。そんな悲しい顔させるつもりじゃなかったんだけど…。あーもぉ。いつも赤葦に怒られるんだよ。何でも素直に話せばいい訳じゃないって!」
あー、もぉ。と繰り返しながら頭を掻く木兎さんの様子に、さっきまで泣きそうだった事も忘れて笑ってしまう。
この人…駆け引きで何か話してる訳じゃないんだ。
私とは正反対…。