第1章 小さな嘘の始め方
そんなどうでもいい事をダラダラと考えていた時だった。
バンっと大きい音がして、ボールがこちらに真っ直ぐ飛んで来ている。
ぼーっとしていたせいで、一歩出遅れたが、たとえ出遅れて居なかったとしても避けきれないような速度だった。
思わず身をすくめて、両目を瞑る。
バコッ
痛い音が響くが…音の感じほど痛くない。
…ってか、全く痛くない。
恐る恐る目を開けると、目の前に大きな背中があった。
助けて…貰ったのだろうか。
「山本ー、謝っとけよー。」
大きな背中が喋ると、向こうの方で頭頂部だけ金髪の人がペコリっと頭を下げながら謝って来る。
「さーせんっした!」
…何語だろう?
突然の出来事に何も返事が出来ずに固まっていた私の時間を動かしたのは、遠くから走って来る小柄な人物だった。
「皐月、大丈夫?ってか、見学なんて珍しいね。…バレーなんて興味ないでしょ?」
同じクラスの孤爪君だった。
「うん…興味ない。付き添いで…ってか、孤爪君がバレー部なのも今知った。部活してるの…意外だね。」
その時、大きな背中がくるっとこちらを振り返った。
「研磨が女子と話してるなんて、珍しいな!クラスメイト?これからも、うちの研磨をよろしくな。」
こちらの返事なんて聞かず、言いたい事だけ言って、慣れた様子で頭をグシャッと撫でてコートに戻っていく。
「今の…誰?」
「え?クロ…?黒尾 鉄朗。うちの主将だけど…」
そう答えた孤爪君の顔が引きつっていたけど、全く気にならなかった。
「黒尾 鉄朗…。」
一瞬で私の心を持ち去った背中を見つめるのに夢中だったから。