第3章 気を引く為の駆け引きのやり方
「とにかく座れよ。」
黒尾先輩にそう促されて、向かいの席に腰を下ろした私の目の前に、
待ち構えたようにパスタが運ばれてくる。
…まだ、何も頼んでません。
店員にそう伝えようかと、黒尾先輩を見ると、
口元だけで笑顔を作っている。
「俺のオススメ。頼んどいた。」
この状況の全てに納得して、思わず吹き出してしまう。
「黒尾先輩のオススメって…。このお店自体が先輩っぽくないのに、流石に無理がありますよー。デートの途中に彼女さんを怒らせて帰してしまった…とか?そんな感じですか?」
おかしすぎて、笑いが止まらない。
デートどころか、穴埋め要員じゃないか。
例えば、黒尾先輩が少しでも私に気があるならば、
こんな穴埋めには誘わないだろう。
少しでも期待して…損した。
「彼女じゃありませーん。たった今終わったセフレですー。」
おちゃらけた感じでそう返す黒尾先輩。
私は惨め過ぎて、泣きたい気持ちになる。
けど、ここで泣いては黒尾先輩に引かれるだけだろう。
泣いちゃダメ…。
「なかなか素直でよろしい!では、本日は精一杯穴埋めさせて頂きます。」
ワザと強がって、ふざけた調子で言ってみると、
黒尾先輩が嬉しそうに笑った。
どんな理由があろうと、黒尾先輩とデート出来るんだ。
この機会を逃したら次はいつかわからない。
身体を重ねなくても、
私と居るのが楽しいと思ってもらう機会だ。
帰ってしまったセフレを彼女さんと何度も呼んでネタにして、
自分の傷をえぐりながらも、開き直っているうちに食事が終わった。