第3章 気を引く為の駆け引きのやり方
side 皐月 和奏
「黒尾先輩?電話とか珍しいですね!どうしましたか?」
声は…上ずっていなかっただろうか?
普段はメッセージばかりの黒尾先輩からの突然の着信に、条件反射のように出てしまったから、少し後悔する。
もう少し落ち着いて出れば良かった。
そんな私の気持ちなど御構い無しに電話口から黒尾先輩の声が聞こえる。
「突然悪いな。今って時間あるか?一緒に飯食って、映画観れるやつ探してるんだけど。」
…なんだ、コレ?
デートのお誘い?
いや、話し振りでは、ご飯と映画さえ付き合ってくれるなら、相手は誰でも…と言った感じだ。
だからと言って、断ったらどうなる?
…他の女の子に行かせるわけにはいかない。
「わかりました。どこに行けばいいですか?」
駅前のレストランの場所を告げられる。
もう中に居るから。と黒尾先輩は言ったけど…
レストランに入ってから一緒に食事をする相手を探すなんて、
そんなおかしな話があるだろうか?
慌てて準備して、周りの目など気にせず目的地へ走った。
のんびりしてる間に、黒尾先輩の気が変わっては、たまったもんじゃない。
店の前で息を整えてから入店すると、
先ほど電話で教わった通りの席に黒尾先輩がいた。
「早かったじゃん。」
…今日もかっこいいな。
これが本当のデートならいいのに。
そんな自分に都合のいい妄想が浮かんでくる。
こんな妄想を黒尾先輩に悟られてはいけない。
慌てて駆け付けた事もバレてはいけない。
「たまたま近くに居たので。」
自分に落ち着けと言い聞かせながら、とびきりの笑顔を作った。