第2章 上手な自分の作り方
「早かったじゃん。」
少し息が上がっているくせに、にっこりと笑って「たまたま近くに居たので」と言ってのける和奏。
あぁ、こいつも役割を演じているのかもなぁ。
俺の中でぼんやりとした仲間意識が芽生える。
店員がすかさずパスタを運んできた。
「俺のオススメ。頼んどいた。」
まぁ、俺も食った事無いけど、
そんな事は教えてやる必要はない。
和奏は少し目を見開いた後に、プハッと笑った。
「黒尾先輩のオススメって…。このお店自体が先輩っぽくないのに、流石に無理がありますよー。デートの途中に彼女さんを怒らせて帰してしまった…とか?そんな感じですか?」
よほどツボにハマったのか、ヒーヒーと笑い続けている。
「彼女じゃありませーん。たった今終わったセフレですー。」
「なかなか素直でよろしい!では、本日は精一杯穴埋めさせて頂きます。」
冗談めかした様子で笑い掛けてくる和奏に、こちらもつられて笑ってしまう。
本当…調子の狂う奴だ。
パスタを食べ終わって、2人で映画館へ向かう。
「んで、その彼女さんとどんな映画を観る予定だったんですかー?」
穴埋めだとわかって、ここまで開き直って付き合ってくれるような女は…初めてだ。
和奏は本当に彼氏とか、面倒なだけなのだろう。
可愛いのに、勿体ねぇ。
「コレー。」
食事中にも散々いじられた彼女さんネタは、いちいちツッコまずにチケットを渡す。
「これは…また…。黒尾先輩…よく付き合うつもりでしたね。この手のラブストーリーとか…全く興味ないでしょ?」
うわー。とチケットを覗き込んでる様子を見る限り、和奏の趣味でもないのだろう。
「僕は紳士なので、女性の要望にはお応えするのが基本なんですー。」
俺の反応に、あははと楽しそうに笑う和奏。
「じゃあ、私の要望も聞いてくれますか?チケット無駄になっちゃいますが…この映画じゃなくて、別のやつが観たいです!」
和奏が指定したアクション映画を聞いて、
それなら俺も楽しめそうだと、和奏の頭をクシャっと撫でる。
和奏の前では、いつも上手く「俺」を演じる事が出来ない。