第1章 小さな嘘の始め方
それから、黒尾先輩が欲を吐き出すまでは夢中だった。
黒尾先輩の首にしがみついているだけでは、初めて襲ってくる快楽に耐えきれず、
両足も使って先輩にしがみついていた。
「いやぁ、予想以上に良かった。ってか俺ら、身体の相性バッチリだな。」
ベッドに横になる私の頭を黒尾先輩がクシャっと撫でる。
私、黒尾先輩に頭撫でられるの好きだなぁ。
何だか、凄いご褒美をもらった気がして、思わず笑顔になる。
黒尾先輩を…独占したい。
出来る事なら、私だけを見て欲しい。
だから…この一瞬で終わってしまう幸せなんて、自分から捨ててしまわなくてはダメだ。
「ですね。また遊びましょうよ。時間空いてたら付き合ってあげてもいいですよ♫」
腰の痛みを我慢して、ベッドから出てさっさと服を着る。
「ったく、そういうのは男の台詞なんですけどー。ってか、もう帰んの?もうちょっとギューってさせろよ。」
一瞬の誘惑に負けちゃダメだ。
黒尾先輩の中のその他大勢から抜け出すんだ。
「じゃあ、次の機会にたくさんギューってしてくださいね。お邪魔しました!」
そう。見下されちゃダメだ。
呼べばいつでも来る都合のいい、
でも、思い通りにならない女でいなくては。
黒尾先輩の家を出た所で、バッタリ孤爪君と鉢合わせた。
「皐月…クロの家でナニしてたの?」
そうか…幼馴染って、近所に住んでるって事だもんね。
何って…わかりきった顔をしてるくせに。
孤爪君は本当に何を考えているか、わからない。
「ご想像の通りだよ。」
「…そんなにクロとヤリたかったの?皐月ってそういうタイプだっけ?服装とか…化粧も…似合ってないんだけど。」
別に…ヤるのが目的じゃない。
「こうでもしないと、黒尾先輩と話すどころか、視界に入る事すら出来ないでしょ。作戦成功だよ!」
ピースを顔の前に出す。
「作戦が下らなさ過ぎて…頭痛くなる。」
孤爪君の意見など関係ない。
黒尾先輩が私の名前を覚えてくれた事。
話しかけて、笑いかけてくれる事。
頭を撫でられる事。
身体を重ね合わせた事。
その事実の方が100倍重要だ。
高校2年の春、初恋をした。
そして、小さな嘘の始まりだった。