第4章 くるぶし/田仁志
「挫いたー!」
なぜかその事実と、あとからやってきた痛みに笑いだしながら、あたしは川の土手のうえで立ち止まる。すぐに暗くなる時刻、夕焼けはもっとも鋭く輝いていた。
とても走れないだろう。残念だけど、おもしろい遊びはおわりだ。
そう観念していたあたしの前方で、慧は靴を脱いだ。その巨人が履くようなおおきな革靴を、あたしに拾わせると、裸足の彼は有無をいわさずあたしを背に負ったのだった。
「あはははっ!」
駆け出した慧の背に揺さぶられながら、笑いはエスカレートし、慧もいつしか特撮の悪役のように笑っている。
靴のサイズが30㎝もあることさえ笑いを誘い、また、その異様な足の速さや、ほとんど話したことのなかったあたしをいきなり背負ったこと、そして、さっきアメリカーをボコボコにのめしたことが、とにかく可笑しかった。
笑いごとではない、という事実は、なんの効果もなかった。むしろそうだからこそ死ぬほどの笑いを煽るのだった。
朱く輝く夕空の景色が、後方へ流れるなかで、あたしは叫ぶ。
「田仁志、あんたほんとにおもしれーなあ!!」
「ギャハハハハッ、やーもやっさあ!!」
「あんたのおかげで、あたしの夕飯なくなったんだけど!」
あのアメリカーを打ちのめすなど、もちろん、あたしの望みではなかった。不意にあたしと、連れ立ったそいつのまえに、おなじクラスの田仁志の巨体が現れたのだ。そしてどんな気分だったのか、田仁志はそいつに殴りかかった。