第1章 蒼茫と縹渺/平古場
凜が砂を蹴っている間に、まちは手に深紅の仏桑華を垂らし、こちらへもどってきていた。
「ねえ、途中でかき氷食って帰ろう」
「…はあやぁ」
すると、まちがすぐ目のまえに立ち、どきりとする。彼女はいままで伏せられていた瞳で、凜の目元を見つめて微笑んだ。
「…麦わらの編み目が荒いから、木漏れ日みたいな影になってるよ」
―――凜ってきれいだよな。
まちはそうつぶやくと、凜の頭に手を伸ばす。
カサリと、音がして、仏桑華を麦わらに差されたのだとわかった。
青あざの原因をしらないはずの彼女は、それでもいう。
「…おまえはわるくないよ」
そして凜は、その純粋な瞳に吸い寄せられるように見つめ返したまま、すなおな感慨を洩らしていた。
「…まち、やーんなーすきやっさ」
凜は砂を足で掬ってみる。しかし妙にラケットが握りたくなり、永四郎のやつに謝ろう、とふとおもった。
それがなにもいわずそばにいてくれたまちへの、礼にもなるだろう。
☆
放プリ4巻の#61の平古場が美しすぎたので書きました
仏桑華はハイビスカスのことです
関係ありませんが1巻のカバー裏にいる滝さんに原作愛を感じますよね