第1章 蒼茫と縹渺/平古場
「凜、おつかれ」
校門を出るまえ、校舎からまちが出てくるのが見え、凜は見ぬふりで去るわけにもいかず、彼女のふらふら歩み寄るのを、立ち止まって待った。
「麦わらなんか被ってるから、しばらくわからなかったよ」
そばへ寄ってきながら、まちには、凜の麦わらのしたの青あざが見えただろう。しかしズケズケ踏み込む気はないらしい。そういう人間だから、彼は逃げなかった。
「似合ってる」
なんにたいしてなのか、まちはニヤリと笑って見せた。
「なんだか晴れてきたな。試験勉強どころじゃないよ」
まだ空は夕焼けに染まりもせず、太陽は白く熱線を注ぐ。部活に出ないのか―――とは、隣を歩く女子は尋ねない。
ただ、飲みかけのマリーブを啜り、目を伏せているだけだからこそ、ひしひし感じられるものがあった。すこし粗暴だが、口先の達者でかっこうつけた女子たちとは比べものにならないほど、優しいのだ。
海沿いの通学路で、欠けた石垣から海がのぞいている。まちは石垣が途切れると、砂浜へ降りていった。
「凜、ここでいつも知念のやつと組み手してるよな」
凜も着いてゆく。この浜辺で1年生の彼に、永四郎がテニスをやろうと声を掛けたときのことを、思い出してしまいつつも。
あの男はだれより武術に優れ、堂々としていて、ときにおとなさえも圧倒する迫力があった。凜と知念はすぐ、こいつとならでかいことがやれると、仲間になる気になったのだった。
そのときと変わらず、いまでも知念と凜は、ここで技を競っている。