第9章 花かんむり/乾
薄く雲のかかった寒空に、そのスカイブルーのマフラーはとても鮮明に映った。
彼を視線のうえ、いつもの堤防に見つけて、わたしは一瞬、駆け寄ることも忘れてしまったのだった。
「そのマフラー、手編みみたい」
そばで見ると、スカイブルーとおもったその毛糸には紺や水色も混じっていて、作るひとの趣味がうかがえて見える。
「ああ。立海の柳蓮二と会ったときもらった。母親の作品だそうだ」
乾くんはわたしに歩幅を合わせ、学校へと向かう。
「やっぱり!」
「蓮二も、おなじようなのを使っていたな。母親が編みすぎてもて余していた作品をお裾分けされた可能性が高い」
きょう柳蓮二もそのマフラーをしているのかしらと、わたしは想像する。
そのスカイブルーを。
頭上の天気はちがうかもしれないけれど、だからこそ、まるで、ふたりは離れて暮らす兄弟みたいだ。
「まちはきょうはしっかり着てないな」
わたしが裏地のないカーディガンのポケットに手を入れるのを見ると、ふと、乾くんはそういった。
昨夜の予報で、気温が上がると聞いたので、厚いコートを着てこなかったけれど、当然朝はまだ寒い。わたしはさっき歩道橋のうえで、頬を刺す冷気にさらされて、身を竦めたのだ。
「ナメてた」
「 … 」
となりで乾くんはわたしの、細められた目に視線を落とし、しばらくかんがえる。