第8章 シャンプー・ラプソディー/不二
中庭を歩いていると、晴れた空に白く光るものがあった。
細かな花弁だ。ふわりと舞い降りるもの、かすかな空気の動きに巻き上げられるもののなかで、僕は束の間佇む。
そばに花木はなかったので、頭上を見上げてみると、2階のベランダから、恋人の顔が見えた。
彼女の肩の辺りに掲げた両手からは、淡い色の花弁がすこしずつ、溢れ落ちていたのだった。
「どうしたの?」
「遊び」
息を弾ませて僕は階段を上り、その部屋からベランダに出た。まちはいった。
「周助、頭に花弁がついちゃったわ」
「ほんとうかい?」
僕の髪を、まちは撫でる。
彼女の瑞々しい手。
いつも赤んぼうの頬のように紅潮した掌が。
僕は、それを愛している。
指先は、いつも濡れているかのように輝いて、初々しい。そこには、さくら貝のようにこころを切なくさせる爪が並ぶのだ!
「なんだかいい匂い…花の匂いじゃないみたいね」
ひらりと、花弁が髪から離れ落ち、ベランダから飛び去った。
さらさらと僕の前髪が揺れ、彼女の手に夢中だった僕は、その匂いをふと思い出した。
「ああ…昨晩、姉さんのシャンプーを借りたんだよ」
「似合っているわ」
匂いのことなのか、花弁のことなのか、そう溢すと恋人は、またつぶやく。
―――周助、すきよ。
指に掬い取った僕の髪に染み込ませるかのごとく、うっとりと。
「それは僕の髪だよ、まち」
いっぽうで僕は、まちの手をとると、その指にキスする。
「それはわたしの手よ」
そして僕らは笑い合う。
まちは僕の「髪」に夢中で、僕はこの頭髪を撫でてくれる、彼女の「手」に夢中だ。
だから、たしかに僕ら自身は抱きあうこともない。唇を合わせることもない…しかし、それでいったいなんの問題があるだろうか?
これ以上の官能など、ありはしないのだ。
☆
毎度ながら章名はとくにイミはないのです
さて、話しは変わりますが閲覧や拍手、そしてレビューたいへんありがたくおもいます
取っつきにくくてドリノベの空気が読めてないものばかり投稿しているので、構っていただけるととても安心します_(:3 」∠)_
立海や四天にも手を伸ばせたらいいなとおもいます