第3章 友情か
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「金沢ですか?」
「そう。さっき帰って来たんだ。」
部屋に入るなり、佐久間さんは重そうな紙袋をガサゴソと開けた。
中から出てきたのは金沢の魚である『のどぐろ』の一夜干しと日本酒。
「旅行ですか?」
「いや、仕事で。
一緒に食べようと思って買って来たの。」
美容師にも出張があるのかと、私はスーツの上からエプロンを着ける。
この2ヶ月間姿を見せなかったのも、そのせいだったのかと思うと少しほっとした。
決して私の事を忘れていたわけではない。
それどころか、出張先でも私の事を思い出してくれていた。
“一緒に食べようと思って”
その言葉には妙なくすぐったさがあったが、悪い気はしなかった。
髪の毛からはほんのりと炭の匂いがした。
焼き鳥屋に3時間もいたのだから当然だ。
本当はすぐにでも着替えてシャワーを浴びたい。
それでも、ご飯を待つ犬のように定位置であるローテーブルの奥に座る佐久間さんを見ていると、身体は自然とキッチンに向かっていた。