第3章 友情か
「…ごめん、寝ちゃってた。」
まぶたを擦りながら、佐久間さんはそう恥ずかしそうに笑った。
大きく伸びをしながら立ち上がる。
その手には重そうな紙袋を持っていた。
「私こそ遅くなってしまってすみません。」
「いや、俺が勝手に来ただけだから。」
「連絡してくれればすぐ帰って来たのに…」
「そう思ったんだけど、先生の連絡先知らなくて。」
言われてみればそうだ。
私達はお互いの電話番号などの連絡先を知らない。
名前と年齢…そして職業。
詳しい勤め先なども一切知らない。
佐久間さんが普段どんな生活をしているかも…私は知らない。
「あの…とにかく中に入って下さい。」
「ありがとう。」
部屋の鍵を開け、明かりをつける。
2ヶ月前に会った時と変わらず、佐久間さんは主人の帰りを心待ちにしていた犬のように顔をクシャクシャにして笑った。