第3章 友情か
鞄の中から鍵を取り出そうとした時だ。
部屋の前にうずくまる男の姿に気付いた。
驚いた私は思わず小さな悲鳴をあげてしまった。
黒いジャケット。
先の尖った歩きにくそうな靴。
目深に被った帽子からは、柔らかそうな黒髪がのぞいていた。
“ねぇ、先生。
またご飯食べに来てもいい?”
そう言って2ヶ月間姿を見せなかった佐久間さん。
まるで夢でも見ているのだろうか。
久しぶりに飲んだ酒のせいで、幻覚を見ているのだろうか…。
「…佐久間さん?」
突然現れた佐久間さんに戸惑いつつも、そう呼び掛けてみるが反応はない。
一体いつからここにいるのだろう。
腕時計を見ると午前0時を少し回った所。
隣にしゃがみ、そっと顔をのぞきこんでみる。
眠っているのか、すうすうと気持ち良さそうな寝息が聞こえた。
相変わらずどこでも眠れる人だなと、ウェーブのかかった黒髪に触れる。
その瞬間、ビクンと佐久間さんは身体を弾ませた。