第3章 友情か
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「おじさん、生ビールもう一杯ね。」
ジョッキに注がれたビールを一気に飲み干したかと思うと、愛美先生は慣れた様子で2杯目を注文した。
炭の匂いと煙が立ち込める焼鳥屋。
周りを見渡せば会社帰りのサラリーマンがほとんどだ。
その中で愛美先生は長い髪を一つにまとめ、壁に貼られた汚いメニューに視線を向ける。
あまりにも不似合いな場所。
困惑する私に気付いたのか、愛美先生はふふっと笑いながらこちらを見た。
「橘先生、嫌いな物とかある?」
「いえ…特にないですけど。」
「じゃあ、いつものでいい?」
「あっ…はい。」
“いつもの”と言われても分からないが、愛美先生の好みに任せる。
初めて入った焼鳥屋の雰囲気にすっかり飲まれてしまっていた。
そもそも外食をする事などほとんど無かった。
母と暮らしていた頃はもちろん、亮太と付き合っていた頃もだ。
普通の女の子が当たり前に経験している事を、私はあまりしていないのだと思う。