第28章 シャッター
鞄の中で携帯電話の着信音が短く鳴った。
急いで画面を見ると、メッセージが届いた事を告げる表示が現れた。
相手は神田美咲。
ニューヨークへ渡った彼女は、ミュージカル女優へと転身していた。
メッセージの内容は『花ちゃんの動画送って。』の一言。
あれからお互いの近況をやり取りするようになっていたのだが、最近はもっぱら花の成長を知りたがる。
「花ちゃんだけが私の癒やしなの。」が口癖だ。
「ねぇ、美波ちゃん。
今日って“小松加奈”来るの?」
スネアドラムを叩きながら、令志さんはそう言った。
「はい。
関係者席で一緒に観ようと思ってます。」
「俺、この前映画観てさ。
すっかりファンになっちゃったの。」
「私も観ました。
ちょっと怖かったですけど。」
「でも、あの切れ長の瞳が良かったんだよね。
“殺人鬼の女子高生”役。」
彼女もまた、映画の主演を務めるまでに成長していた。