第27章 生きる事を選んだ
もう一本だけ吸おうか。
ポケットから取り出した箱から、タバコを一本手に取る。
風で消えてしまわぬよう、手をかざしながらライターで火を着けた。
その時だった。
屋上のドアが開く音がした。
その音に、私の瞳は涙で滲んでいく。
まさか、この場所で会えるとは思ってもいなかった。
いや…本当はこの場所なら会えるような気がしていた。
振り返ると、そこには悪戯に笑う彼女が立っていた。
「久しぶり。」
「連絡…してなくてごめんね。」
「うん。
でも…こうして会えたから嬉しい。」
「さっき、カッコ良かったじゃん。」
「え?」
「退職の挨拶。廊下で聞いてた。」
そう笑う彼女の言葉に、思わず顔が真っ赤に染まった。
落ち着いて考えるとあまりにも滑稽な事を言ってしまった気がしていた。
しかし、あれが私の本心なのだから仕方ない。
悔いはないが、すでに思い出したくはない“過去”だ。