第27章 生きる事を選んだ
暖房の無い肌寒い体育館。
全校生徒が整列する中、教頭に名前を呼ばれてステージへと上がる。
今まで目立たぬように生きてきた私にとって、こんなにも大勢の前で挨拶をするのはこれが二度目だ。
一度目は、この高校へ赴任した時だった。
あの頃は…それなりに夢や希望があっただろうか。
いや、私には目の前の仕事を淡々とこなすだけの日々だった。
ステージの中央に置かれた演台に着き、軽く一例する。
目の前に広がる生徒達の目は、どれも好奇に満ちていた。
指を指しながら笑い出す男子生徒達。
「キモい。」と言ったのは2学年の飯田理沙達か。
「静かにしろ!!」と、田辺先生が柄にも無く声を荒げたが、生徒達のどよめきは収まる事がない。
こんな事だろうとは思っていた。
挨拶は手短に。
そもそも誰も私の言葉など聞きたくないだろう。
「数学を担当していた橘です。
一身上の都合により、今年度で退職する事になりました。
短い間でしたが、この学校で教師をさせて頂いた事はとても良い思い出です。
お世話になりました。
皆さんもお元気で、頑張ってください。」