第26章 峠
「会ってくれてありがとう。」
「だって…美波に頼まれたら嫌だなんて言えなくて。」
こうして早織と会えるように動いてくれたのは美波だった。
早織に会いたいと言った俺に、美波はとても協力的だった。
「でも、母さんには恋人がいるの。」
そんな知りたくなかった情報までも教えてくれた。
「美波とはどうやって知り合ったの?
あの子にはあなたの話をした事は一度も無いのに。」
「サクちゃんが、美波と偶然知り合って。」
「佐久間君が?」
「そう。今、サクちゃんと一緒に暮らしてる。」
「…どうしてそんな事に?」
「まあ、“運命”ってやつでしょ。」
冗談めいた俺の言葉に、早織は顔をしかめた。
その顔があまりにも懐かしく、そして心地良い。
出会った頃はふざけ合い笑いながらも、その芯の通った性格で、いい加減な俺を導いてくれるような…そんな安らげる存在だった。