第25章 雨はやさしく
「どうして母さんと離婚したの?」
今なら聞ける気がした。
いや、聞かずとも分かる。
不貞行為を繰り返す高杉さんと、幼い私を抱えて苦しむ母の姿が容易に想像出来る。
それでも…今ここで高杉さんの口から聞かせて欲しい。
どうして高杉さんは母と別れ、私達とは別の生活を選んだのか。
「愚かだったと思う。俺は安定よりも刺激を求めたんだ。」
予想通りの答えに安心した。
堅実な母といいかげんな父。
そんな二人の間に出来た娘でいるのも…悪くないと思う。
「倉田理子とはいつから付き合ってたの?」
「え?」
「ニュースでは25年前からって言ってた。」
「ああ、理子ちゃんね。
あんなの嘘に決まってんじゃん。」
「…嘘?」
「理子ちゃんはね、男性に興味無いの。
今でも元スタイリストだった女性と一緒に暮らしてるし。
だから今回の報道は理子ちゃんの事務所からしても都合が良かったんだよ。
相談したら快く引き受けてくれてさ。」
いつものように笑う高杉さんに、もう怒りや不信感は無い。
あるのは私を肯定してくれる絶対的な存在が隣にいるという安心感。
皇居御苑の奥に広がる街の明かりを見ながら、本当にいい加減な父だと私も笑った。