第25章 雨はやさしく
「“大切”なんてよく言うよ…。」
「“大切”なんだから仕方ないだろ。」
「じゃあ、どうして母さんと別れたの?
私の事が“大切”ならどうして?」
子供染みた事を言っているのは分かっている。
夫婦の問題は夫婦にしかわからない。
ここで責めたところで誰も幸せになどならない。
「私はずっと父親を知らないまま大人になった。
父親がいない生活…それが私の“普通”だった。
大好きな母がいたし、あまり仲は良く無かったけれど…祖父母もいてくれた。
でも…それだけじゃ絶対に埋められない物があるの。
私は…私は…。」
私は高杉さんに…父親に愛されたい人生だった。
肩を揺らし泣いた。
今まで向き合おうとせずにきた高杉さんへの想い。
高杉さんはソファーから立ち上がると、泣きじゃくる私の身体をきつくきつく抱き締めてくれた。
大きな背中にそっと腕を回す。
思っていたよりも大きな父の背中。
「…クソ親父。」
そう言って高杉さんの身体をきつくきつく抱き締めた。