第25章 雨はやさしく
「…どうして?」
涙で言葉が詰まる。
乱れる呼吸に身体が痺れた。
私の涙はまるで高杉さんを責めるように流れ続ける。
もう、溢れ出す感情を止める術が分からない。
しんと静まり返る部屋に、私の泣き声だけが響いていた。
「美波は本当によく泣くな。」
高杉さんはまるで小さな子供に語りかけるような優しい声でそう笑った。
「“どうして?”って、美波が大切だからだろ。
もちろんサクちゃんも大切だけど。
俺は美波が傷付くのは見たくないね。」
手にした缶ビールを飲み干し、今度はまるですねた子供のように口を尖らせる。
その姿に…沸々と怒りが込み上げた。
“大切”
その言葉をもらうのは人生で二度目だ。
一度目は佐久間さんからだった。
まだお互いの気持ちを確かめ合う前。
“俺は先生が大切。”と、優しく抱き締めてくれた。
しかし、高杉さんの口から出た“大切”の言葉には…怒りと不信感が沸いた。