第25章 雨はやさしく
高杉さんは缶ビールを開けると窓際のソファーへ腰かけた。
昨日からこの部屋で1人、騒ぎが落ち着くのを待っているのか。
缶ビールを飲む口元には無精ひげが蓄えられていた。
「月島ちゃんがしばらくここにいろって言うの。
退屈すぎて曲出来ちゃった。
“引きこもりの歌”。
一応ラブソングなんだけど。」
そういつものように笑う高杉さんを見て…私は何を言えば良いのか。
先ほどまで頭にあった言葉達はどこかへ消えてしまっていた。
胸を締め付ける想いだけがただただ溢れてくる。
瞬きをすると、瞳からは大粒の涙がこぼれ落ちた。
わなわなと震える手を強く握りしめる。
高杉さんの顔が涙で歪んでいく。
どうしてだろうか。
大切な時ほど言葉は出てこない。
「…どうして?」
押し潰されそうな喉からかろうじて出た言葉はそれだけだった。
どうして、高杉さんは私を…佐久間さんを助けてくれたのか。
どうして、自分が犠牲になるような事が出来たのか。
どうして、高杉さんは母と出会ったのか。
そして…どうして高杉さんは母と別れ、私達とは別の生活を選んだのか。