第24章 言葉足らず
車は先ほどから同じ道を走っているようだった。
こうして私と話す時間を作ってくれたのか。
もしかすると、私が帰宅するのを最寄り駅で待ち伏せていたのかもしれない。
やはり…神田美咲はテレビ画面で見た通り、凛とした強さと優しさに溢れた素敵な大人の女性なのかもしれないと思う。
そして、料理が苦手でプライドが高い悪魔のような女性。
「私、夫と離婚するの。
だからあなた達には悪いけど、今回の記事は良いきっかけだったのかもしれない。
今の事務所も辞めてきた。
もうここに未練なんか無い。
ニューヨークへ行く事にしたの。
私は“女優”として生きる事しか出来ないから…。」
そう言うと神田美咲は運転手に車を停めさせた。
ハザードの音が鳴る車内。
わずかに神田美咲のすすり泣く声が聞こえた。
「女はね、“全て”をこなして初めて認められるのよ。
仕事、結婚、出産、家事、育児。
私には仕事以外何も成し遂げる事が出来なかった。
世間から言わせれば私は欠陥ね。」