第24章 言葉足らず
駅へ向かい歩いている時だった。
車のクラクションに驚き、飛び跳ねた。
接触事故でもあったのだろうか。
思わず身体が強ばる。
クラクションは路上に停止した黒塗りの車からのようだ。
運転手が降りてくる。
眼鏡をかけたスーツ姿の男。
当然、私には関係ない。
こんな場所をうろうろしている時間は無い。
早くどこかの店でお酒を一杯だけ飲みたい。
朝から続くこの激しい後悔を消し去りたかった。
しかし、車から降りてきた運転手の男は突然私の腕を掴んだ。
「何ですか?」
「車に乗って下さい。」
「放して下さい。」
「大きな声を出さないで下さい。」
「あなた、誰ですか?」
「私は神田美咲のマネージャーです。」
車の後部座席を見ると、わずかに開いた窓の隙間から神田美咲の大きな瞳がこちらをのぞいていた。
「車に乗って下さい。」
男に促されるまま、車に乗り込む。
一体…私に何の用があるというのか。
困惑する私の顔を見て、神田美咲はふふっと小さく鼻で笑った。