第2章 高校教師
「私は…橘です。橘美波。」
もっと早くお互いの名前を教え合うべきだった。
何だかぎこちなくなってしまったが、男は優しく微笑んで「橘先生ね。」と言ってくれた。
少しずつ知っていく男の事。
ほんの数日前まではお互いの存在すら知らなかった。
それが今では、お互いの人生にお互いが関わり初めている。
“佐久間さん”
心の中でそう呼んでみる。
妙なくすぐったさがあったが、それは幼い頃に初めて出来た友達の名前を呼んでみたあの時の感覚にとても良く似ていた。
食事を終え「お茶を入れますね。」と立ち上がる。
「ごちそうさま。」と笑う男の顔を見て、とりあえずは満足してくれたようだと胸を撫で下ろした。
次があれば、料理の勉強をしておこう。
次がもしあれば…。
そんな事を思いながらキッチンに立ち、ポットから急須へとお湯を注いだ。