第2章 高校教師
プロ野球選手という夢に敗れた少年時代の話は、男にとってあまり良い思い出ではないのかもしれない。
先ほどの戸惑った表情もそのせいだったのだろうか。
そう思いながら、おみそ汁を飲む。
ふと、男の食器を見るとほとんど料理は残っていなかった。
食べ終わってしまえば、男がここにいる理由はもう無い。
きっと…次にここへ来る事も無い。
なぜだろう。
急に寂しさが胸を襲った。
「俺、佐久間だから。」
「…え?」
「佐久間俊二。俺の名前。
言ってなかったよね。
さっき先生に“あなた”って呼ばれて気付いた。」
まるで心を見透かされていたようだ。
男について私が知っていたのは年齢と職業だけだ。
“次”がないのなら、それでも良いと思っていた。
しかし、こうして名前を教えてくれたという事は、“次”があると思ってもいいのだろうか。
恋ではない。
恋などではない。
しかし、わずかに胸の高鳴りを感じた。