第24章 言葉足らず
佐久間さんがまだ“美容師”であると信じていたあの頃。
私達はいつもの焼き鳥屋で語り合った。
身体の関係を持つのが怖いと…愛美先生の部屋に押しかけた事もあった。
2人で行ったアイヴィーの武道館ライブ。
年末に行われた音楽フェスでは、アイヴィーのステージを眩しい笑顔で見つめていた。
いくらでも打ち明ける機会はいくらでもあったはずだ。
私は…
“言葉が足りないのは嘘ではない”
そう自分を正当化し、愛美先生と向き合う事を避けていたのだ。
「愛美先生には伝えるべきです。」
「はい。」
朝礼の時間が近付き、私達は視聴覚室を後にする。
足取りは重く、呼吸は苦しくなる一方だ。
それでも…私は愛美先生に伝えなければならない。
私の恋人はthe IVYのギタリスト・佐久間俊二である事。
愛美先生を騙すつもりではなかった事。
そして…愛美先生の存在に支えられていた事。