第24章 言葉足らず
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誰にも聞かれたくないと言う私の気持ちを汲んでか、田辺先生は視聴覚室へと通してくれた。
ここであれば誰の目にもつかないだろう。
ドアには鍵をかけた。
朝礼が始まるまでのわずかな時間。
一体どこから話すべきなのかと…佐久間さんと出会った日の事を思い出していた。
「昨日の放課後です。
僕はサッカー部の顧問ですので、グラウンドに生徒達といました。
その時に…生徒が“週刊誌の記者”と名乗る男から声をかけられたそうです。
“橘美波”先生について…と。」
月島さんの情報によれば、私は佐久間さんの内縁の妻だ。
どういった人物像かを確かめるために、やって来たのか。
何て迷惑なのだろう。
その生徒に、私と佐久間さんの関係を話したのだろうか。
だとすれば、今朝の男子生徒達の反応も納得出来る。
「その記者は、橘先生がthe IVYのギタリスト・佐久間俊二の内縁の妻だと言っていたそうです。」