第23章 過去の女
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佐久間さんの声で目が覚めた。
時計を見ると午前6時。
いつもならまだ眠っている時間だ。
寝返りをうち、横を見ると佐久間さんの姿は無い。
遠くから聴こえるこの声はリビングからか。
誰かと電話をしている様だった。
こんな時間に誰だろう。
何となくだが…こんな時間でもお構いなしに電話をかけてくるのは高杉さんの様な気がした。
高杉さんが実の父親である事が分かり、2人でパスタを食べたあの夜。
あの日の夜から…私は高杉さんと会っていない。
会うつもりも無い。
私達の中にある大きな“わだかまり”。
それは簡単に解消出来るものではない。
「わかったよ。」
そう言い、佐久間さんは電話を切ったようだ。
寝室から出ていくと、リビングのソファーでは佐久間さんが酷くうなだれていた。
大きなため息をつき、頭を抱えている。
仕事…の話だったのだろうか。
ただならぬ空気に、私は声を掛ける事を躊躇した。