第23章 過去の女
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「おかえりなさい。」
「ただいま。」
キッチンから漂うカレーの香りに、佐久間さんはいつもの様なクシャクシャの笑顔を見せてくれた。
エプロンのポケットには、神田美咲から受け取った鍵が入っていた。
何と言って渡せば良いのか…。
“神田美咲に会った。”
そう言ってしまえば、佐久間さんを困らせてしまうと思った。
しかし、私は佐久間さんの恋人だ。
今現在の恋人。
今回ばかりは…少し出過ぎた事を言わせてもらっても良いだろうか。
「…帰って来たら神田美咲さんがいました。」
「…会ったの?」
「はい。昨日も。」
「そう。ごめんね。」
佐久間さんはソファーへ腰掛け、深いため息をついた。
エプロンを外し、その横にそっと寄り添う。
佐久間さんを責める気持ちなどさらさら無い。
佐久間さんの気持ちが私から離れ、かつての恋人である神田美咲へと向いているなど思ってもいない。